Kelly Clarkson、ディーヴァは健在（「The New York Times」記事抄訳）

新作『Meaning of Life』をリリースしたばかりのKelly Clarksonが、200名以上のラジオプログラマーを招いて行った自宅でのイベントの中で、「The New York Times」のインタヴューに応じている。

Kelly Clarksonは音楽産業のユニコーンのような存在だった。2002年の「アメリカン・アイドル」の初シーズンで優勝した彼女だが、当時はリアリティー番組出身者が歌手の道を進むことは未知の世界であり、好奇の目で業界は見守っていた。しかし、彼女はそのパワーを維持し続けた数少ない番組出身者の一人となったのだ。彼女はこれまで3つのグラミー賞を獲得し、11曲のTOP10シングルを生み出し、これまでリリースした7枚のアルバムで1800万枚を売り上げてきた。"Since U Been Gone"のハイノートをカラオケで歌いたがらない人がどこにいるだろうか。



しかし、さらに特筆すべきなのはKelly Clarksonは15年もの間、メジャーなポップ・シンガーであっただけでなく、いわゆる普通のポップ・スターの枠組みにはとらわれてこなかったのだ。彼女は踊らないし、タブロイドを賑わせることもしないし、他のスターと喧嘩したりもしない。そして彼女は体型を馬鹿にする人々やTwitterで悪口を言う人々を振り払ってきた。彼女は、Adele同様の素晴らしい歌声の持ち主で知られているが、それがどんな感情であれ、それは彼女の心の奥底から湧き上がってきたものである。

Kelly Clarksoの新しいレコード・レーベルのAtlantic RecordのCOOであるJulie Greenwaldは、「Kellyは自分ではない何者にもなろうとはしていないの」と述べている。

Kelly Clarksonはこれまで所属していたRCAとの契約について、「見合い結婚」のようだったと語っている。彼女は新作では、自身を象徴するサウンドであるポップ・ロックの枠を超えて、テキサスで過ごした若き日に自身を魅了し続けていたソウルのエッセンスを取り入れている。新作のファースト・シングル"Love So Soft"は堂々としたトラックに、ガール・ギャングのバック・ボーカルとホーンが鳴り響き、凄まじいハイノートでクライマックスを迎える曲となっている。そこには明快なメッセージがあるのだ。「The Diva Is Present（このディーヴァは健在である）」



彼女はサウンドを変化させたことについて次のように語っている。「たしかに、"Since U Been Gone"の第2弾を作るよりも高い売上を記録するのは難しい。決して平坦な道のりではない」「でも、これ以外の選択肢はない」

一方で、彼女はRCA時代の大変な経験にも感謝していると語っており、「私たちは成功したし、功績があるから認められていたしね」と述べている。「ある時、母に電話したの。私はこう言った。つまり、こんなの楽しくないってね」と彼女はデビュー当時を回想している、「ウェイトレスをしていたことは楽しかった。Red Bullのプロモーション・ガールをやってたときも楽しかった。Papa John'sで働いてたときも楽しかった。だけど、これは私の夢なのに、楽しいと感じなかったの」

彼女は2007年のアルバム『My December』を制作する際に、RCAのトップだったClive Davisと不和も起こしている。「私は生み出す全てのレコードでベストを尽くしてきた。だってこれからの人生ずっとこれらの楽曲を歌うことになるわけだからね」

レーベル移籍のきっかけについて、「Warner Music Nashville」の取締役John Espositoとの出会いにあったと彼女は語っており、グループディナーの際に、彼がBruce Springsteenを歌い、「まぁ、なんてこと！音楽を愛してるレコード会社の重役もいるんだ！」と思ったことがきっかけだったという。その後、John Espositoの勧めでAtlantic Recordの取締役に会い、彼女は契約を決めたのだという。

「私って、デートがたくさん必要なタイプではないの。愛する人を見つけたら、それに従うの」と彼女は語っている。

Julie Greenwaldは、Kelly Clarksonのボーカリストとしての力量を賞賛しており、「彼女は間違いなく、これまでにおいて最高の女性ボーカリストの一人です」と語っている。「いますぐチャートを見て、ラジオで流れてるものを聴いてみてください。素晴らしい歌声を持った女性はそんなに多くないですよ。片手で数えられるくらいでしょう」

Kelly Clarksonは新作『Meaning of Life』においてもそのボーカルに光を当てることにプライオリティーをおいている。「私がマジで歌えるようなレコードを作りたかったの」と彼女は語っている。また、彼女は子育てがしたかったこともあり、「ハッピーなときはいい曲が書けないため」に自分で作曲することにはこだわらなかったようである。

新作のエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるKelly ClarksonとCraig Kallmanは、「もしもAretha( Franklin)が現代に生まれたらどのようなレコードを作ったか？」と問いかけながらアルバムを制作したのだという。

一方で古いサウンドにはしたくなかったとも語っている。「ノスタルジックなものでは全く無く、レトロな感じでもない」とCraig Kallmanは語っている。「そうではなくて、モダンな感じで、私達がスタンダードと呼んでいるレコードの最高の部分を吹き込んだものに」にしたかったのだという。

「20代のときに曲を書いていたときとは明らかに違うの。別にいくらか過度な要求をしているわけではないんだけどね。でも若いのよ。アプローチが」とKelly Clarksonは述べている。「もしも"Slow Dance"を20歳の時に歌ってたとしたら、私は一体何がわかっているというのよ？って感じでしょ」

フィメール・アンセムな新曲"Love So Soft"であるが、初週のストリーミング数は50％以上が男性のものであったことが明らかになっているという。「85％は女性になるって方に100万ドル賭けていたんですけどね」とJulie Greenwaldは明らかにしている。「びっくりですよ」

「彼女が、こんなに満足しているのを見たことがありませんでした。それは個人的にもプロフェッショナルな観点からも、そして彼女の音楽についても」とJulie Greenwaldは語っている。「人々は彼女の歌声や音楽を愛しているだけでなく、彼女そのものを愛しているのだと私は思います。ファンとともにずっとあり、彼女は初めからずっと、本当に正直であり続けていたし、しかも本当に才能溢れる人物であったのだと思います」

トイレ休憩から戻ってきたKelly Clarksonは人懐っこく笑う。「あぁ！本当にオシッコがしたかったの！しかも大量のね！」彼女は自身を「お人好し」で「オタク」だと称する。彼女は「ゲーム・オブ・スローンズ」が大好きだが、リアリティーショーは全く見ないという。彼女は皮肉を述べるのが好きなのだろう。

私たちはリアルタイムで、彼女の「アメリカン・アイドル」としての歩みを目撃してきた。両親の離婚に伴い、父親に捨てられた気持ちを歌った"Because of You"や"Piece by Piece"といった楽曲で彼女は自身のパーソナルな話を私たちに教えてくれた。彼女は何も包み隠さず、優しい存在だった。

「実際、嫌ではなかったの」と彼女は語っている。「一定レベルの自負があったからね。みんなが、私の歩みを自分たちの人生においても重要なものだと感じてくれているんだろうっていうことへのね。それって、どこだかわからない田舎から出てきた人にとってはすごいことよ。突然みんなが私を一つの物として捉えるようになったら、それは嫌だけど」

先日、ツイッター上で体型についてのハラスメントを受けたことについては次のように語っている。「変よね。だけど、私は脳とともに生まれ落ちたのよ。ボーカル・コードだけじゃないの。意見を持たないなんて馬鹿げてるしね」と彼女は熱く語っている。「もしも私に意見がなかったら、それこそ屈辱よ。意見を持たず、意見が重要とされない違う国に生きているすべての人々にとって、それは非情な皮肉でしょうけど。私にとってはそれって、この国家に存在するあらゆる機会を全然利用しないようなものなの」

『Meaning of Life』の中核をなす曲である"Whole Lotta Woman"では、彼女の体型や、アティチュード、自身の価値などについて言及している。この曲のインスピレーションは彼女の生まれ育った南部で存在する、男性を探して経済的に安定しようとする女性への挑戦から生まれたものであり、女性は男性から次のように言われるのだという。「僕達が君を教育しよう。君たちには賢くなってほしい。だけど圧倒するくらいに賢すぎてはいけない。美しくなって欲しいけど、尻軽女のように見えるくらいセクシーになってはいけない。成功してほしいけど、誰かを不快にするくらいの成功は収めてはいけない」

Kelly Clarksonは最後に次のように語っている。「私は自分が成功していて、強い意志を持っていて、意見も言うという事実を隠そうとは思わない」さらに次のように続けている。「時々間違えることもある。だけど学んでいく。私にはこの声があるのだから」